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「原爆投下は嘘だった」は本当?NoBorder動画が炎上した理由と林千勝氏の主張を史料で検証

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「原爆投下は嘘だった」。

そんな衝撃的なタイトルを掲げたYouTube動画が、2026年8月に入り、あらためて大きな注目を集めています。

話題となっているのは、株式会社NoBorderが運営するYouTubeチャンネル「NoBorder X File」で2026年4月3日に公開された動画です。

女性自身の報道によると、動画には近現代史研究家の林千勝氏が出演し、広島に投下されたのは原子爆弾ではなかったとする趣旨の持論を展開し、8月17日時点で35万回以上再生されていました。

しかし、ここで最初に結論を明確にしておく必要があります。

広島と長崎に原子爆弾が投下されたことは、日本側・米国側双方の公的記録、軍事資料、写真、科学者や搭乗員に関する記録、被爆者の医学的研究など、多数の独立した資料から確認されています。

広島市は1945年8月6日午前8時15分に原子爆弾が投下されたと記録し、米国立公文書館もB-29「エノラ・ゲイ」が原子爆弾「リトルボーイ」を広島に投下したことを公開資料として記録しています。

つまり今回の問題を見る際に重要なのは、「刺激的な説だから排除する」という姿勢でも、「既存の歴史だから疑ってはいけない」という姿勢でもありません。

その主張が、複数の一次資料や科学的記録と整合するのかを確認することです。

この記事では、NoBorderの動画で何が語られたのか、なぜ批判が再燃したのか、そして「原爆投下は嘘だった」という主張を史料から検証すると何が見えてくるのかを、できるだけ分かりやすく解説します。

「原爆投下は嘘だった」NoBorder動画とは?何が起きたのか

今回注目されている動画は、「NoBorder X File」で2026年4月3日に公開された「原爆投下は嘘だった…」と題するコンテンツです。

女性自身によると、近現代史研究家の林千勝氏が出演し、フィフィ氏、西川将史氏らを前に、1945年8月の広島への原爆投下について一般に認識されている歴史とは大きく異なる説を語りました。

動画で紹介された主要な主張を整理すると、「トルーマン米大統領の原爆投下声明はでたらめだ」「広島に投下されたのは原子爆弾ではなく大型の複合爆弾だったと考えられる」「広島原爆に関連する米軍映像はフェイクだ」といった内容です。

さらに女性自身の記事では、林氏が「プルトニウム原爆の完成は1949年1月以降だった」とする趣旨の説明をしたことも紹介されています。

これだけを聞けば、「自分が学校で学んできた歴史は間違っていたのか」と驚いた人がいても不思議ではありません。

しかし、歴史研究で重要なのは主張のインパクトではなく、その主張を裏付ける史料が、既存の膨大な史料群を覆せるほど強いかどうかです。

今回のケースでは、そこを慎重に確認する必要があります。

動画は4月に公開されていましたが、8月になって議論が再燃しました。

きっかけの一つとなったのが、NHKニュースが8月8日に原爆をめぐる偽情報の拡散について問題提起したことです。

NHKニュースの公式Xでは、「原爆はうそ」「放射線による被害はなかった」といった情報がSNSで広がっているとして注意を呼びかけました。

 


その後、SNSユーザーの間で「NHKが触れた30万回以上再生されたYouTube動画とはどの動画なのか」という関心が高まり、NoBorder X Fileの動画にも再び注目が集まった、という流れです。

動画が再び注目されるまで

今回のニュースは「4月に公開された動画が、終戦の日を迎えた8月に再炎上した」という点を押さえておくと分かりやすいでしょう。

関連YouTube

今回の検証対象となっている動画はこちらです。

NoBorder X File「原爆投下は嘘だった…」をYouTubeで確認する

※上記は主張を推奨する目的ではなく、この記事で検証している一次コンテンツを確認するためのリンクです。

なぜ炎上した?批判が相次いだ4つのポイント

動画が批判された最大の理由は、「これまで知られていなかった仮説を提示したから」だけではありません。

多数の歴史資料と食い違う重大な主張を、被爆者と犠牲者に直接関係するテーマで提示したことが強い反発につながっています。

女性自身は動画のコメント欄について、被爆者や死者への冒涜だとする趣旨の批判や、企画を通した配信元・制作側の責任を問う声が寄せられていたと報じています。

特に問題を分かりやすく象徴しているのが、動画序盤に表示された長崎原爆投下日の表記です。

女性自身によれば、動画には「6日広島 10日長崎」という趣旨のテロップがあり、視聴者から「長崎は9日」と指摘するコメントが寄せられました。

長崎市の公式記録では、原子爆弾が投下されたのは1945年8月9日午前11時2分です。

歴史上の大きな出来事を再検証すると主張するコンテンツで、その基本的な日付に誤りがあれば、視聴者が「ほかの検証は大丈夫なのか」と疑問を持つのは自然でしょう。

もう一つ重要なのが、「出演者の発言」と「番組全体のメッセージ」の違いです。

出演者が個人的な説を述べることと、番組がその説に合わせたタイトル、テロップ、ナレーション、映像を組み合わせてコンテンツとして提示することは、必ずしも同じではありません。

視聴者から見れば、出演者の発言だけでなく、編集された完成動画全体を一つの情報として受け取るからです。

だからこそ、歴史的事実を大きく覆す説を扱う場合には、「これは出演者個人の仮説です」とするだけでなく、反対資料や専門家の見解を併記することが重要になります。

「発言する自由がある」ことと、「発言内容が事実として正しい」ことは全く別の問題です。

言論の自由は主張の正しさを保証する制度ではなく、主張の正否は証拠によって判断されます。

「原爆投下は嘘だった」は本当?公的史料から検証

結論から言えば、「広島に原子爆弾は投下されていない」という主張は、現在確認できる膨大な歴史資料と整合しません。

広島市は、1945年8月6日午前8時15分に広島へ原子爆弾が投下され、地上約600メートルで炸裂したと公式に記録しています。

広島市の資料では、爆発による熱線、爆風、放射線が複合して甚大な被害を引き起こしたと説明されています。

米国側にも記録があります。

米国立公文書館は、1945年8月6日午前8時15分ごろ、B-29爆撃機「エノラ・ゲイ」が「リトルボーイ」と呼ばれる原子爆弾を広島に投下したことを明記しています。

同館には、出撃前のエノラ・ゲイ、テニアン島で機体へ積み込まれるリトルボーイ、投下後の広島、長崎上空の原子雲など、多数の写真・関連資料が保存されています。

さらに、マンハッタン計画に参加した物理学者ルイス・アルヴァレズは、広島作戦でエノラ・ゲイに同行する別のB-29に科学観測員として搭乗していました。

米国立公文書館には、アルヴァレズが1945年8月6日に息子へ書いた手紙も保存されており、単一の政府声明だけではなく、作戦に参加した人物の記録も存在しています。

ここが重要です。

「政府がそう発表したから正しい」というだけではありません。

日本の被爆地側の記録、米軍資料、公文書、科学者の記録、写真資料、医学研究など、性質の違う証拠が同じ出来事を指し示しています。

したがって、仮に特定のニュース映像や編集映像について「別の映像が混ざっているのではないか」という疑問が生じたとしても、それだけで原子爆弾の投下そのものが存在しなかったことにはなりません。

動画で報じられた主張と公的記録を比較

論点 動画内で紹介された林氏の主張 確認できる公的記録 検証結果
広島への原爆投下 原子爆弾ではなかったとする趣旨 広島市、米国立公文書館などが原爆投下を記録 公的記録と整合しない
投下された兵器 大型の複合爆弾だったとする趣旨 「リトルボーイ」というウラン型原爆を記録 公的記録と整合しない
原爆開発時期 プルトニウム原爆完成は1949年以降との趣旨 1945年7月にプルトニウムを用いたトリニティ実験を実施 整合しない
長崎の投下日 動画テロップで「10日」と表示されたと報道 長崎市公式記録は1945年8月9日 誤り
米軍映像 「100%フェイク」とする趣旨 米国立公文書館に写真、映像、作戦記録等が多数存在 その主張だけでは原爆否定の根拠にならない

動画内の発言内容は女性自身の報道、公的記録は広島市・長崎市・米国立公文書館等によります。

「映像が怪しい」だけでは原爆投下を否定できない理由

歴史を覆すには、一つの資料への疑問ではなく、互いに独立した大量の証拠を説明できる、より強力な証拠が必要です。

あわせて読みたい1冊

被爆した子どもたち自身の記録を読むなら、長田新編『原爆の子 広島の少年少女のうったえ 上』があります。

自らも被爆した編者が集めた子どもたちの体験記で、一次証言に近い資料へ触れる入口として適した一冊です。

「1949年までプルトニウム原爆は完成していなかった」はどう考える?

今回の動画を検証するうえで、特に重要なのが原爆開発の年代です。

女性自身の記事では、林氏が「プルトニウム原爆の完成は1949年1月以降」とする趣旨の主張を語ったと紹介されています。

しかし、米エネルギー省が公開しているマンハッタン計画史では、これとは明確に異なる経緯が記録されています。

ロスアラモスではウラン235を用いるガンバレル方式の「リトルボーイ」と、プルトニウムを用いる爆縮方式の「ファットマン」が開発されました。

そして1945年7月16日、ニューメキシコ州で行われた「トリニティ実験」では、プルトニウムを使った核装置が実際に爆発し、米エネルギー省の史料では約21キロトンの爆発規模だったと記録されています。

その約3週間後の8月6日にはウラン型のリトルボーイが広島に投下され、8月9日にはプルトニウム型のファットマンが長崎に投下されたと、同じ米エネルギー省の資料に明記されています。

つまり、少なくとも「プルトニウムを用いた原爆が1949年まで存在しなかった」という意味で主張するのであれば、1945年7月のトリニティ実験と8月9日の長崎投下という記録を説明できません。

ここで混同しやすいのが、広島と長崎に投下された原爆が同じ方式ではなかったことです。

広島の「リトルボーイ」はウラン型で、長崎の「ファットマン」はプルトニウム型でした。

そのため、プルトニウム型兵器に関する何らかの資料を広島のリトルボーイにそのまま当てはめることにも注意が必要です。

「プルトニウム原爆についての記述」と「広島に投下されたウラン型原爆の存在」は分けて確認しなければなりません。

さらに、1945年8月6日に発表されたトルーマン大統領の声明そのものも、現在トルーマン大統領図書館で原文を確認できます。

そこには米軍機が広島に一発の爆弾を投下したこと、その威力がTNT火薬2万トンを超える規模であること、そして原子爆弾であることが記されています。

声明がプロパガンダ的な政治目的を持っていたかどうかを歴史的に論じることと、原子爆弾そのものが存在しなかったと結論付けることは別問題です。

政治的な意図を疑うことと、物理的・歴史的事実まで否定することを混同しないことが重要です。

原爆開発史を詳しく知りたい人へ

リチャード・ローズ『原子爆弾の誕生』は、核分裂の発見からマンハッタン計画、原爆開発へ至る過程を詳しく追った大著です。

「放射線被害はなかった」という説は?医学研究から分かること

原爆否定論では、「本当に原爆だったなら、もっと強い放射線が残っているはずだ」といった主張が語られることがあります。

しかし、これは核爆発時の初期放射線と、その後に残る残留放射線を混同すると誤解しやすいポイントです。

厚生労働省は、原子爆弾が通常兵器と大きく異なる特徴の一つとして放射線を挙げ、原爆のエネルギーには爆風や熱線だけでなく放射線が含まれると説明しています。

また広島平和記念資料館の学習資料では、爆発から1分以内に大量の初期放射線が放出され、さらに誘導放射線や放射性降下物などの残留放射線も存在したと説明されています。

「80年以上経った現在、街に高い放射線量が残っていないから原爆ではなかった」という推論も成立しません。

放射線量は時間とともに変化するうえ、核兵器の爆発で発生する放射線の性質は、原子炉事故によって長期間にわたり大量の放射性物質が放出されるケースと同一ではないからです。

さらに重要なのが、被爆者を対象とした長期研究です。

放射線影響研究所は、広島・長崎の被爆者とその子どもを対象として、死亡率、がん罹患、臨床的な健康状態などを長期にわたり研究してきました。

同研究所は、原爆被爆者の固形がんについて放射線被ばくとの関連を研究し、放射線量とリスクの関係を報告しています。

日本では現在も、放射線起因性などの条件に基づいて原爆症認定制度が運用されています。

もちろん、個々の病気について「どこまでが放射線によるものか」を判断することは簡単ではありません。

厚生労働省自身も、加齢や生活習慣など他の原因との区別が難しい疾病があるため、医学・放射線学の専門家による審査が必要だと説明しています。

だからこそ科学的な姿勢とは、「全部放射線のせいだ」と断定することでも、「放射線被害などなかった」と断定することでもありません。

長期的に蓄積されたデータをもとに、分かっている範囲と分かっていない範囲を分けることです。

「不明な部分がある」ことは、「原爆も放射線被害も存在しなかった」ことの証拠にはなりません。

公的な映像資料を確認したい人へ

広島平和記念資料館は公式YouTubeチャンネルでも資料館や被爆関連資料を発信しています。

広島平和記念資料館 公式YouTubeチャンネル

長崎については、長崎原爆資料館などを案内する公式動画も公開されています。

「おうちで長崎原爆資料館」YouTubeプレイリスト

NoBorderは炎上にどう回答した?「出演者の見解」と説明

今回の騒動で大きな注目を集めたのが、動画を公開したNoBorder側の見解です。

女性自身は8月10日にNoBorderへ取材し、15日夜に担当者から文書回答を受け取ったと報じています。

その回答によれば、NoBorder側は当該動画で語られている内容について、出演者の見解であり、会社側が報道として事実認定したものではないという趣旨の説明をしています。

林氏の「原子爆弾はフェイク」という主張についても、NoBorder側は会社としての見解ではないと回答したとされています。

一方、動画を削除する予定があるかという質問については、言論の自由の観点から削除予定はないとの回答でした。

ここから分かるのは、NoBorder側が「林氏の原爆否定説を会社として事実認定している」という立場を取っているわけではないということです。

ただし、議論がそこで終わるわけでもありません。

なぜなら、メディアが第三者の発言を公開する場合、「自社の見解ではない」と説明することと、「どのような見せ方で視聴者に届けたのか」は別に検討できるからです。

NoBorder側が説明した3チャンネルの位置付け

チャンネル NoBorder側の説明 ポイント
NoBorder News 報道番組として運営 事実ベースの報道を掲げる
NoBorder 異なる立場の出演者が議論する討論番組 発言は各出演者の見解
NoBorder X File 流通する言説や過去の未解決事件などを扱う 報道番組ではなく、発言は出演者の見解

女性自身によれば、NoBorder側は今後、「NoBorder News」でX Fileが扱った内容を事実ベースで検証する可能性があるとも説明しています。

これは今後の重要なポイントでしょう。

もし実際に検証番組が公開されるのであれば、今回提示された説と、公文書・科学資料・専門家の知見をどのように比較するのかが注目されます。

「出演者の見解」という説明だけでなく、その見解をどこまで検証して視聴者に提示するかがメディア側の信頼性を左右します。

多様な言論空間とファクトチェックは、本来、両立できるものです。

溝口勇児氏や配信元に責任はある?「言論の自由」とは別問題

女性自身は、NoBorderを溝口勇児氏が代表を務める株式会社NoBorderの運営チャンネルと紹介しています。

株式会社NoBorderの会社案内でも、代表者として溝口勇児氏が掲載されています。

では、出演者が独自説を語った場合、その責任は出演者だけにあるのでしょうか。

この点は「出演者か運営会社か」という二択で考えるより、役割ごとに分けたほうが理解しやすいでしょう。

出演者には、自分が示す事実関係や根拠について説明する責任があります。

一方で制作側は、出演者の言葉をどのタイトルで出すのか、どんなサムネイルにするのか、どの発言を採用するのか、どのナレーションを付けるのかを決めます。

つまりYouTube動画は、出演者が話した内容を無加工で置くだけのものとは限りません。

タイトル、サムネイル、テロップ、ナレーション、編集を含めた完成品として視聴者に届きます。

そのため、「これはゲストの発言だから制作側は無関係」という単純な整理も、「ゲストの発言はすべて制作会社の公式見解だ」という整理も、どちらも正確とは言えません。

今回NoBorder側は、X Fileを報道番組ではないと説明しています。

ただ、視聴者にとっては「報道番組かエンターテインメントか」という内部的な分類より、見ている情報を事実として受け取ってよいのかのほうが重要です。

だからこそ重大な歴史問題について大胆な説を扱うなら、番組内で反証資料を紹介したり、専門家に検証を依頼したりする手法も考えられます。

「言論の自由を守ること」と「検証せずに情報を流すこと」は同じではありません。

むしろ自由な議論を守るためにも、検証可能な事実と個人の推測を明確に区別する必要があります。

なぜ今「原爆はデマ」という情報が広がるのか

今回の問題を「一つのYouTubeチャンネルの炎上」として終わらせると、本質を見落とします。

NHKが問題提起したのは、YouTubeだけでなくXやTikTokなどでも「原爆はうそ」「放射線被害はなかった」といった情報が拡散している状況でした。

さらに、生成AIで作られた原爆関連映像が、実際の歴史映像のような印象で流通する問題も指摘されています。

生成AIの普及によって、私たちは以前より簡単に「昔撮影されたように見える映像」を作れるようになりました。

その結果、動画を見ただけで「これは本物の記録映像だ」「これは偽物だ」と判断すること自体が難しくなっています。

もう一つの理由が、SNSでの情報消費の速さです。

「教科書には書かれていない真実」「81年間隠されていた秘密」「世界中が騙されていた」といった強烈な物語は、地味な史料解説より一瞬で興味を引きやすいものです。

一方、公文書を数十ページ読み、史料の成立過程を確認し、別の資料と照合する作業には時間がかかります。

その情報の確認に必要な時間と、拡散に必要な時間の差が、現代のフェイク情報問題をさらに難しくしています。

歴史フェイクが拡散しやすい構造

ここで覚えておきたいのは、再生回数や「いいね」の数は歴史的事実の証明にはならないという点です。

100人しか見ていない一次史料が正しく、100万回再生された動画が間違っていることも当然あり得ます。

情報の信頼度は「何人が信じたか」ではなく、「何を根拠にしているか」で判断する必要があります。

フェイク情報を見抜く方法を学びたい人へ

立岩陽一郎氏・楊井人文氏の『ファクトチェックとは何か』は、流通するニュースや言説を客観的に検証する考え方を解説した入門書です。

原爆について「本当か?」を自分で調べる5つの方法

では私たちは、今回のような「常識を覆す」とする情報に遭遇したとき、どう確認すればよいのでしょうか。

最初に行いたいのが、一次資料や一次資料に近い公的記録へ移動することです。

今回なら、広島市、広島平和記念資料館、長崎市、長崎原爆資料館、米国立公文書館、米エネルギー省などが候補になります。

検索結果の一番上に出たブログや切り抜き動画ではなく、「その情報の大元はどこか」を探します。

次に、資料を一つだけで判断しないことです。

米政府の資料だけなら「米国が作った話では」と疑う人もいるでしょう。

しかし広島市や長崎市の記録、被爆者の証言、米軍資料、科学者の記録、医学的研究が互いに別の経路で同じ出来事を示しているなら、証拠としての重みは大きくなります。

3つ目は、「映像が存在しない」ことと「出来事が存在しなかった」ことを混同しないことです。

歴史上の出来事の多くは、発生した瞬間そのものを映像で撮影されていません。

それでも、前後の写真、命令書、日記、作戦記録、物証、被害記録などから事実関係を再構成できます。

4つ目は、引用された資料の原文と前後を読むことです。

一文だけ切り取ると全く別の意味に見えることがあります。

「○○博士がこう書いた」という主張を見たら、「いつ、誰に向けて、何について書いた資料なのか」まで確認することが重要です。

最後に、生成AI画像や再現映像を歴史資料と混同しないことです。

映像に「AI生成」「再現CG」という表示があるか、公開元は誰か、元資料は示されているかをチェックしてください。

「動画で見たから証拠」ではなく、「その動画の出典は何か?」まで確認する習慣が重要です。

疑うことは悪いことではありませんが、疑った後に調べるところまでが検証です。

被爆者の証言は「記憶だから証拠にならない」のか

原爆をめぐる議論では、ときどき「人の記憶は間違うのだから、被爆者証言は信用できない」という考え方も見られます。

確かに、人間の記憶には誤りが生じる可能性があります。

歴史研究でも、一人の証言だけを無条件に絶対視するわけではありません。

しかし、だからといって大量の証言をすべて無価値とすることもできません。

広島の場合、被爆者証言だけが孤立して存在しているわけではなく、建物被害、写真、軍事記録、医学データなど、別種類の資料と照合できます。

広島市によれば、原爆投下当時、市内には居住者や軍人、周辺地域から来ていた人など約35万人がいたと考えられ、1945年12月末までに約14万人が死亡したと推計されています。

もちろん、正確な死亡者数について現在も完全に確定しているわけではありません。

広島市自身が「正確には分かっていない」としたうえで推計値を示しています。

この姿勢は非常に重要です。

歴史学や科学は、分からない部分まで「全部分かった」と装うものではありません。

分かっていること、推定できること、不明なことを分けるからこそ信頼性が高まります。

「死者数が正確には分からない」ことと、「原爆が投下されなかった」ことの間には大きな論理的飛躍があります。

同じように、「特定の写真の撮影時刻が分からない」「映像の編集経緯が不明」といった個別の疑問から、原爆投下全体を否定することもできません。

史料の不確実性を認めることと、歴史的事実そのものを否定することは別です。

一つの証言を絶対視しないのと同様に、一つの疑問だけで膨大な証拠を無効化しない姿勢も必要です。

「原爆投下の是非」を議論することと「原爆は存在しなかった」は別

今回の議論でもう一つ注意したいのが、原爆投下をめぐる歴史的・倫理的議論との混同です。

  • 「米国はなぜ原爆を使用したのか」
  • 「日本の降伏に原爆はどこまで影響したのか」
  • 「ソ連の対日参戦との関係はどうだったのか」
  • 「原爆を使わず戦争を終わらせる方法はなかったのか」
  • 「民間人を大量に巻き込む兵器の使用をどう評価するのか」

こうしたテーマは、歴史学・政治史・倫理の領域で議論し続ける価値があります。

実際、トルーマン大統領図書館の教育資料でも、原爆投下の判断について複数の選択肢や倫理的問題を検討する教材が公開されています。

しかし、

「原爆を投下する必要があったのか」

という問いと、

「原爆はそもそも投下されていない」

という主張は全く違います。

前者は、確認された出来事をどのように評価するかという議論です。

後者は、出来事そのものの存在を否定する主張なので、より強い証拠が必要です。

たとえば「原爆投下は戦争終結に必要ではなかった」と考える人でも、広島・長崎への原爆投下そのものを否定する必要はありません。

逆に、「原爆投下が戦争終結を早めた」と考える人でも、その使用によって生じた民間人被害について議論することはできます。

歴史的事実の確認と、その事実をどう評価するかは二段階に分けて考えることが重要です。

事実確認を飛ばして価値判断へ進むと、議論の前提そのものが崩れてしまいます。

まとめ|「原爆投下は嘘」という主張は何を根拠に判断すべき?

今回のNoBorder X File動画をめぐる騒動で最も重要なのは、誰かを感情的に攻撃することではありません。

「原爆投下は嘘だった」という非常に重大な主張が、実際に残されている史料と整合するのかを確認することです。

女性自身の報道によれば、動画内では広島への原爆投下そのものを否定する趣旨の説や、米軍映像をフェイクとする説、プルトニウム原爆の完成時期を1949年以降とする趣旨の説明などが展開されました。

しかし広島市は1945年8月6日午前8時15分の原爆投下を記録し、長崎市は8月9日午前11時2分の原爆投下を記録しています。

米国立公文書館にはエノラ・ゲイ、リトルボーイ、投下後の広島などに関する写真や記録が残っています。

米エネルギー省のマンハッタン計画史でも、1945年7月16日のプルトニウムを用いたトリニティ核実験、8月6日の広島へのウラン型リトルボーイ投下、8月9日の長崎へのプルトニウム型ファットマン投下という流れが記録されています。

さらに放射線影響研究所では、広島・長崎の被爆者に対する放射線の長期的な健康影響について継続的な研究が行われています。

こうした複数の記録を合わせると、「広島や長崎への原爆投下そのものが嘘だった」という説を支持するだけの根拠は確認できず、むしろ多数の独立した記録と矛盾します。

一方で、歴史について疑問を持つこと自体まで否定する必要はありません。

新たな史料の発見によって、これまでの歴史認識の細部が修正されることはあります。

だからこそ重要なのは、「常識を疑った人か」「既存の歴史を信じる人か」という陣営争いにしないことです。

  • どの資料を使っているのか。
  • その資料は本物なのか。
  • 別の独立した資料と一致するのか。
  • 反対証拠を説明できるのか。

この4点を一つずつ確認すれば、刺激的な動画タイトルに振り回されにくくなります。

NoBorder側は女性自身の取材に対し、今回の主張は出演者の見解であり会社の見解ではないと説明し、動画については削除しない方針を示したと報じられています。

さらに、将来的にNoBorder Newsで事実ベースの検証を行う可能性にも言及しています。

今後その検証が実際に行われるのであれば、今回の主張と公的史料をどのように照合するのかが注目されるでしょう。

戦後81年を迎え、直接体験を語れる人が少なくなっていく時代だからこそ、私たちに必要なのは「何でも信じること」でも「何でも陰謀だと疑うこと」でもありません。

一次資料へ戻り、複数の証拠を照合し、自分で確かめる姿勢です。

 

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